点字通信
点字通信 第15号
点字通信第15号
令和6年11月25日(月)発行
11月1日点字の日(校内放送より)
~点字による読書環境の移り変わりをたどって~
今日、11月1日は、何の日かご存じですか?今日、11月1日は、我が国の点字が誕生した日です。1890年のことでした。今年で、日本の点字は134歳ということになりますね。
今年も、少しの時間、点字についてお話させていただきたいと思います。
私(話者)が点字の学習をスタートして、今年で40年になります。この間に、点字の世界も大きく変化しました。今日は、そのあたりのお話です。
私が点字を習い始めた当時の日本では、パソコンによる点訳はまだまだ行われていませんでした。点字盤や懐中定規、カニタイプ(ライトブレーラー)をはじめとした点字タイプライターを用いた点訳が点字本作成の中心でした。もうお気づきですね。パソコンによらない点訳。つまり、印刷することができません。本が完成したとしても、何人か同じ本を読みたい人がいた場合、順番待ちをせざるを得ませんでした。
本の完成にも非常に多くの時間を必要としました。点字の書き間違えや分かち書きなどの修正に多くの手間を要したため、点訳を依頼してから手元に届くまでに短くて半年、長いと1年を超えることが当たり前の状態でした。
また、点訳されているジャンルも限られており、参考書以外には、有名な小説が何冊か点字になっている程度でした。読みたい本を読むのではなく、点字になっている本を読む、そんな時代が長く続きました。
学習面で大変だったことの一つに、辞書を引くことがあります。私が中学生だった頃の日本には、全100巻の英和辞典が全国の盲学校にありました。しかし、これだけの冊数の中から調べたい単語を見つけ出すことには多くの時間がかかり、心が折れそうになることが何度となくありました。
時は流れ、現在ではパソコンによる点訳が当たり前となりました。全国のどこかで作られた点訳データを、コピーしたり、ダウンロードしたりして、読みたい時に読むことができるようになりました。
点訳に要する時間も短縮され、早いと2週間から1か月、長くても3か月で完成できるようになりました。また、ブレイルメモやブレイルセンスなどの携帯型点字ディスプレイの普及により、点訳本や辞書を持ち運び、好きな場所で読書を楽しむことができるようになりました。
40年前の私が現在の盲学校を見学したとしたら、あまりの違いに驚きすぎて気絶してしまいそうなくらいです。
読みたい時に読みたい本を、読みたい場所で読むことができる。これは本当にすばらしいことです。点字に限らず、墨字、音声、一人一人に合った方法で読書を楽しんでいただけたら嬉しいです。
10月27日(日)~11月9日(土)は読書週間でした。
点字係のお勧めの本を紹介します。
『盲学校でマジックショーを』 万博著 オンデマンド (ペーパーバック)
「そんなことできるの?」と思ったあなた!まずは1ページ読んでみてください。
『手で見るぼくの世界は』 樫崎 茜著 くもん出版
視覚支援学校に通う祐と双葉の物語ですが、実際にニュースになったことや、視覚支援学校に通う中学生のリアルな日常や心情が書き込まれています。共に生きる社会の実現のために何ができるかを考えるきっかけになります。
『わたしのeyePhone』 三宮 麻由子著 早川書房
シーンレスのエッセイスト三宮麻由子さんの最新刊です。小さな相棒スマホとの新しい発見の日々が綴られています。暮らしは小さな選択の連続で、自由に選べることが自信につながり、心のあり方も変わります。
『夕暮れに夜明けの歌を』 奈倉有里著 イースト・プレス
この本で初めて奈倉有里さんという方を知ったのですが、なんて素敵な人なんだろう、と大好きになってしまいました。奈倉有里さんは『同志少女よ、敵を撃て』の逢坂冬馬さんのお姉さんだそうです。
『風が吹いたり、花が散ったり』 朝倉宏景 講談社文庫
フリーターの亮磨と視覚障害のある女の子さちがひょんなことから出会い、ブラインドマラソンに挑戦するお話です。
今の自分を変えたい人、一歩踏み出す勇気がほしい人にオススメです。
『〈できること〉の見つけ方 全盲女子大生が手に入れた大切なもの』
石田由香理・西村幹子著 岩波ジュニア新書
全盲の女子大生が、日々悩みながらもたくさんの壁を越え、自分の可能性を広げていく姿が書かれています。
障害の有無に関係なく、誰もが生きやすい社会のありかたについて考えさせられる1冊です。
『ブレイブストーリー』 宮部みゆき著 角川文庫
ミヒャエル・エンデの『果てしない物語』と同じく、自分では変えようのない現実から異世界に行き、心の成長を遂げて戻ってくる物語です。周りは変えることは難しいけれど、自分が変わって現実と向き合っていく力をつけることができるという部分がとても好きです。小学校高学年から中学生くらいにおすすめしたいのですが、とても長い物語なので、相当の読書好きでないと読み切れないかもしれません。
『まあ空気でも吸って』 海老原ひろみ著 現代書館
海老原さんは、麻痺などの障害がありながら、一般の小学校から大学まで出られた方です。この方の物事の考え方や言葉が非常に素敵で前向きな気持ちにさせてくれます。その一つが、『ただの木でしかない屋久杉を見にいって行って勇気をもらったり、ただ地形が盛り上がっただけの富士山が見えた時にすがすがしい気持ちになってリフレッシュしたり、そのものに価値を見出しているのは人の心。木や土に価値を見出せる人間が、ただ生きているだけの人間に価値を見出せないのは怠慢でしかない。』
です。
点字通信 第14号
点字通信第14号
令和6年9月17日(火)発行
点字通信第14号は、本校南校舎2階にある資料室の紹介です。
<資料室について>
本校南校舎2階には、これまでの本校の学習教材を保管した資料室があります。古いものでは、大正時代に使われていた教科書もあり、全国の盲学校の資料室の中でも、5本の指に入るほど、貴重な資料が収納された部屋だそうです。
まず、南側の窓際には、様々な点字製版機が置かれています。
木製足踏み式軽便点字製版機(昭和38年)
鉄製足踏み式点字製版機(昭和47年)
電動式点字製版ローラー(昭和60年代)
現在ではパソコンで点訳し、多数の点字印刷物を作ることができるようになりました。しかし、それ以前の時代では、膨大な労力と時間を費やしながら作成していました。
1枚の亜鉛板や塩ビ板を二つ折りにして、点字製版機で点字を刻印していきます。指だけでなく、足で踏みながら刻印していくのには、熟練した技能が必要でした。また、間違えを修正することも大変で、例えば、「あみ」と書こうと思っていたのに、「あめ」と書いてしまった場合、金属の棒を4の点の位置に当て、木づちで叩いて消していました。
「ぐんま」と書きたいところを、「ぐま」と書いてしまった場合は修正することができないため、もう一度初めからやり直さなければなりませんでした。
できあがった亜鉛板や塩ビ板には、点字用紙を挟み、ローラーに通します。紙を挟んでローラーに通す人、ローラーを通過してきた亜鉛板や塩ビ板を受け取り、中から点字用紙を出す人の二人組体制で印刷物を作成していきます。
こうした場面でも事故がよく起こりました。ローラーに通す際に、自分の手を入れてしまう人、亜鉛板や塩ビ板の角で皮膚を切ってしまう人などもいました。筆者が中学生だった頃の盲学校では、文化祭や生徒会行事がある度に、夕方まで生徒も学校に残り、点字印刷作業をしていました。
現在も、点字教科書の製版所では、点図を作成する際には、1枚1枚亜鉛板で図版を作成しているようです。
資料室東側には、アポロブレイラーなどの、パーキンスが登場する以前の点字機が置かれています。資料室北側(廊下側)には、視覚障害者用のそろばんや、オプタコンなどが置かれています。
アポロブレイラー
視覚障害者用そろばん
オプタコン
オプタコン(Optical to Tactile Converter)とは、全盲の生徒が墨字の形を覚えるための機械で、筆者が小学生、中学生だった昭和50年代の盲学校では、盛んに使われていました。
小さなスキャナーのようなものを墨字の印刷物の上に置きます。すると、そのスキャナーに接続された機械のピンが振動し、墨字の形が浮き出てくる仕組みになっています。この機会を用いて新聞や本を指で読む練習が全国の盲学校で取り組まれていましたが、画数が多い文字を判別することは困難だったため、実用的なところまでいった人は、それほどいなかったようです。
この他にも、資料室には点字に関わる様々な教材や資料が保管・展示されています。
点字通信 第13号
点字通信第13号
令和6年7月12日(金)発行
触ってわかる!~新しいお札編~
今年7月3日に新しいお札が発行されました。これに伴い、触ってお札を区別することができる工夫も、よりわかりやすいように一新されました。点字通信第11号の「触ってわかる!~現行のお札編~」と比較してお楽しみください!
1つめはお札の横幅についてですが、これは変更がありませんでした。
2つめは「識別マーク」についてです。新しいお札では、識別マークの形はどのお札でも共通になり、マークがついている位置によって触り分けができるようになりました。
識別マークが付いている面がお札の表で、マークの形は11本の斜線です。以前のものは幅1mmにも満たない細い長さ1cmほどの線や5mm程度の八角形であったのに対し、あたらしいものは斜線全体で1cm×2cmくらいのサイズがあり、「縦線がたくさん並んで横長の長方形を形作っている」という感じの触り心地です。
1万円は縦の短い辺の中央にあります。お札の左右に付いているイメージです。5千円は横の長い辺の中央です。お札の上下にある感じです。千円は左下と右上の角に付いています。マークの向きは縦長になるよう配置されています。
1万円札、5千円札、千円札の識別マーク(赤い枠部分)
これをお財布に入れたままで触り分けるには、右の角にマークがあれば千円、長い辺の中央にあれば五千円、どちらにもなければ一万円ということになりますね。ちなみに私は点字を読む左の人差し指で識別マークを触りたいため、裏返してお財布に入れます。こうすると千円のマークは左の角にきます。
蛇足ですが、新しいお札は識別マークの位置が対称となる位置についているため、マークだけでは上下の見分けがつかなくなりました。
3つめはホログラムについてです。これまでのお札は千円にはなかったのですが、新しいお札にはすべてのお札に入りました。一万円は左の識別マークの右側に幅2cm、縦はお札の幅いっぱいくらいのサイズのホログラムが、五千円は左半分の中央くらいの位置に一万円と同じくらいのサイズのものが、千円は左下の識別マークの右側に3cm×3cmほどの四角いホログラムがあります。
他の部分よりはつるっとしていますが、とっさの触り分けにはあまり実用的ではないかもしれません。しかし、ホログラムと識別マークの組み合わせにより、お札の上下を判断することができます。
1万円札、5千円札、千円札のホログラム(赤い枠部分)
上記のような触り分け以外にも、金額の文字は、漢字よりもアラビア数字での表記の方が大きくなり、とても見やすくなりました。
1万円札、5千円札、千円札のアラビア数字(赤い枠部分)
また、紫外線を当てると発光したり、傾けると浮かび上がる文字が隠されていたりするなど、新しいお札にも多くの不思議が隠されています。ぜひ発見してみてくださいね!
(紙幣の画像は国立印刷局のウェブサイトより)
点字通信 第12号
点字通信第12号
令和6年5月31日発行
点字ICTって何?
携帯型の点字電子機器を見かけたことはあるけれど、実はよく知らないという方も多いのではないでしょうか? そこで今回は、点字ICTの中でもメジャーなブレイルセンスとブレイルメモについて取りあげます。
点字ICTのうち、点字電子手帳、あるいは複合型点字情報端末と呼ばれるこれらの機器の一番の特徴は、6点入力用キーボードと、下部にある点字ディスプレイです。6つのピンがそれぞれ独立して出たり引っ込んだりすることで、凹凸を作り、点字を表示します。標準点字盤と同じ1行32マスの点字ディスプレイがついたサイズと、持ち運びに便利なように、それより一回り小さくしたものが発売されています。音声ガイドも内蔵されているので、点字には不慣れだけれど、読み書き能力を向上させたいというユーザーにも安心な設計となっています。
どちらの機器も点字の読み書きが機能の中心です。点字文書の作成や編集のほか、ワードやエクセルのファイルも読めるようです(機種により、別途拡張有料ライセンスが必要)。デイジー図書や音楽の録音・再生機能、時計、タイマー、スケジュール、電卓などの機能もあります。また、パソコンの点字ディスプレイとしての利用もできます。
点字電子機器は日常生活用具の給付対象商品ですが、自治体によって異なる場合がありますので、市役所等で確認が必要です。
ブレイルセンスとブレイルメモ
ブレイルセンスとブレイルメモの大きな違いは、メーカーとキーの数、そしてWi-Fi接続の有無です。
ブレイルメモは、点字ディスプレイや点字ラベラーを製造販売している国内メーカーの株式会社ケージーエスです。点字ディスプレイを小型化し、携帯用のブレイルノートを販売。それをさらに進化させたのがブレイルメモです。本体に直接インターネット接続機能はありませんが、パソコンやAndroidスマートホンとBluetooth接続ができるので、点字ディスプレイとしてパソコン・スマホを操作できます。メーカー担当者によると、Androidアプリのうち、Talkbackで読み上げ可能なアプリのほとんどを操作できるそうです。長年に渡り製造・販売を行っているメーカーなので、熟練の愛用者が多く、メーカーのアフターフォローも充実しているのが特徴です。メーカー保証期間も安心の5年間です。
これに対し、ブレイルセンスは韓国のHIMS社が開発した製品を日本語版にし、独自の機能を追加したものです。日本での開発、販売を手掛けているのが点訳ソフトのメーカー、有限会社エクストラです。初代ブレイルセンスからWi-Fi接続を可能にしており、ウェブページの閲覧やメールの送受信ができます。最近では一般的にスマホやタブレットで利用されているGoogleマップやApple Music,Podcastなどのアプリも使えるようです。これ1台でタブレットを持ち歩く感覚で使用できます。キーの数も少なく、全体的にスマートな見た目となっています。
以下の表に、メーカーホームページの商品紹介ページに掲載されていた情報をまとめました。
ブレイルセンス シックス |
ブレイルセンス シックスミニ |
ブレイルメモ スマートAir32 |
ブレイルメモ スマートAir16 |
|
表示マス数 | 32マス | 20マス | 32マス | 16マス |
完全充電時の 連続使用時間 |
18時間 | 12時間 | 約15時間 | 約17時間 |
重さ | 705g | 430g | 約650g | 約430g |
価格 | 599,000円 | 398,000円 | 420,000円 | 340,000円 |
保証期間 | 1年間 | 1年間 | 5年間 | 5年間 |
実際の使用状況
本校で点字ICTを愛用されている先生方にアンケートを行ったところ、ブレイルセンスを利用されている先生と、ブレイルメモを利用されている先生が半々でした。主にメモをとったり、点字文書の作成や編集、点字データの教科書を確認したり点字図書の読書に利用しているそうです。特にヘビーユーザーになると、音楽の録音・再生や時計、電卓、スケジュール管理にも使用されているとのことでした。
機器を購入するにあたり、他のものとも検討したそうですが、最終的な決定理由は使いたい機能があったり、近くに同じ機器を使用している方がいる点が挙げられました。
まとめ
情報機器の発展にともない、視覚に障害があっても自力でアクセスできる情報量は格段に増えました。その一助となっているのが点字ICTです。単純に、音声ではなく点字で入出力ができる点で、会議中のメモや電話でのメモなどに便利だそうです。
用途や目的に合わせて多彩な使い方ができるので、まだまだ新たな使い方があるかもしれません。
点字通信 第11号
点字通信第11号
触ってわかる!~現行のお札編~
みなさんのお財布に入っているお札。このお札には触って確認できる工夫がされていることをご存じでしたか?お札を触って区別する方法を一緒に見ていきましょう。
1つめはよく知られていることですが、お札の横幅の長さが違います。高額なお札ほど横幅が長く、1万円札と5千円札は4mm、5千円札と千円札は6mmの差があります。最近は見かけませんが、2千円札は5千円札とは2mm、千円札とは4mmの差があります。
2つめは、「識別マーク」というものが付けられています。お札表面の下の両角(りょうかど)に、
1万円札はカギ型、5千円札は八角形、千円札は横棒、2千円札は点字の「に」が、
盛り上がったインクで印刷されていて、さわり分けることができます。5千円札の識別マークはさすがに触って八角形とはわからないと思いますが。
3つめは、1万円札と5千円札にはホログラムが印刷されています。左の識別マークの右側にあり、他の部分よりもつるっとしたさわり心地になっています。千円札にはなく、少しざらついた感触です。
※2014年に、5千円札のホログラムの形状が改良され、1万円札との違いがより分かりやすくなりました。
このように触って見分ける工夫がされています。お財布に入れる時に、お札を裏返し、上下逆にして入れると、角の裏面に識別マークがくるので、お財布からお札を取り出すことなく人差し指で識別マークを触ってお札の種類を確認することができて便利です。
また、国立印刷局からお札識別アプリ「言う吉くん」」(iPhone用)の無料配信を行っています。このアプリは、お札にカメラをかざすと、券種を識別して音声と大きな文字で金額をお知らせします。真偽判別機能はありません。(国立印刷局HPより)
ところで、今年の7月3日から新しいお札が発行されます。この新札では識別マークの形もついている場所も変わります。詳しくは来年度の点字通信でお伝えします。
点字練習会
もともとは点字使用者の実力アップを目的に実施していましたが、平成28年度からは、日頃点字を使用して学習する児童生徒に加え、弱視の児童生徒、職員も参加する点字練習会を実施し、全校をあげて点字に親しむ機会としています。今年度3回実施でき、今回で27回目となりました。ご参加ありがとうございました。令和5年度点字練習会昇級・認定者(17名)
画像引用:規格サイズ.com (https://standard-size.com/)
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